私が『ネオ・ヴォヤージュ』を好きになれないのは、作品としての退屈さもあるが、誰もが言うように「ガイチの場面が無い」ことも、大きな理由のひとつである。
タニオカ大売出しのこのショーは、タニファンとして喜ぶべきなのかもしれない。
だが、最初に観たときは唖然とした。
え?ガイチが芯の場面、無いの?ガイチ、これで退めるのに?

ピアノ魔だって素晴らしい声を聞かせてくれるが、真ん中で踊りっぱなしのタニに客の目は取られ、結局ガイチは横で歌っている人でしかない。
仲間たちで、「タニが操るピアノ魔、ガイチが翻弄されるピアノマンを演る。そのほうがキャラも合ってるしね」と、話したりもした。
まあ、タニにあのピアノ魔の歌は……無理だろうけど(笑)。
たかちゃんとの男役デュエットダンスだって、ガイチに踊って欲しいさ。
いくら、タニオカ祭り大開催中(笑)の私だとしてもね。
同期トップと組んで、宝塚最後の燕尾を踊る。私たちはそれを観たいのに。
退団公演って、そういった愛に溢れたものであって欲しいし、また、そうあるべきだと思う。
エトワールの旅立ちの歌はガイチに相応しく、そこはいいんだ。
でも。そこだけって、いったい……。

東宝で初日を観て、それがとにかく不満だった。
しかし、何度も公演を観るうちに。
そして、千秋楽が近づくにつれ。
ガイチの笑顔を見ていると、もう何も言えないという気持ちになってきた。
ガイチは与えられたその場を、ほんとうに幸せそうな顔で楽しんでいたから。
退団者の多くがそうであるように、楽近くのガイチからは美しい光が放たれていた。
誰がなんと言おうと、ガイチは今、幸せなんだ。
それなら、いいんだ。扱いがどうとか、私たちが口を挟む前に。
あなたが幸せなら。

東宝千秋楽。ガイチ宝塚最後の日。
この日のルーナ伯爵のすさまじさを表現できるだけの語彙が、私に無いことが悔しい。
きっと、映像でも分からないと思う。彼が持てる哀しい叫びの、ほんとうのところは。
ガイチだけではないけれど。千秋楽の『炎にくちづけを』はすさまじかった、何もかもが。
作品と別れるのが、ただ。哀しかった。

ショーのガイチは、どの場面でも花をつけていた。今日で最後、その日の胸につける花。
いつもそうだが、この退団者の花を見ると、涙が滲んでくる。
プロローグの赤の衣装は、赤い花と金の羽。
ここのガイチソロで、今日だけは拍手が入った。歌と拍手が被るから、声聞こえなくなるんだけど(笑)。
でも、ショー最初のガイチソロを包む、温かい空気が嬉しかった。
ガイチ、晴れやかないい顔で歌ってたなあ。
タップの黄色燕尾は、オレンジに近いような黄色のコサージュ。
ピアノ魔は、白い花のついた白の羽飾り。
青燕尾は、胡蝶蘭を一輪。これ、すごく綺麗だったな。
フィナーレは、薄紫のコサージュ。

エトワールは、大きな大きな拍手に迎えられて始まった。
幸せな、ほんとうに幸せに満ちた、優しい歌だった。
ムラで同期が観にきた日に泣いて歌えなくなったことがあったと聞いたが、東宝で私が観た日は、いつもにこやかにしっかりと歌っていた。
楽のニ日前にコウちゃんが観にきていたが、その日も涙はこぼさなかった。
客電が点いてもえんえん泣き続けていていたのは、コウちゃんのほうだよ。
そして、最後のこの日も、詰まることなく歌いきった。
涙をこらえていたのかもしれない。濡れたような声にも聞こえた。
美しく、誇り高く。幸せな歌だった。

今、私は初めての旅に出る。終わりのない夢を。夢を追って。

ガイチの新しい旅に、終わりなき夢に。また多くの幸せがありますよう。
祈らずにはいられなかった。

サヨナラショーも話には聞いていたけれど、ひたすらガイチ一人で歌い続けているのが、少し淋しかったな。
もっと、たかちゃんや宙組の子と絡んで、皆がガイチを送り出すような。そういうショーが観たかったよ。

そう思いながら観ていたが、大階段にGAICHIって電飾がきらめいたとき。
きらきら輝く、その“GAICHI”を背に。唯一人、毅然と立ち。
ありったけの思いをこめて歌うガイチに。
今日の主役はあなたなんだから、このサヨナラショーはこれでいいんだと。
あなたが幸せなら。
最後にまた、そう思えた。

夢。見果てぬ夢。ただ、追いかけてた。

「見果てぬ夢」
これ、私の大好きな歌なんだ。
そしてこの歌も、今日のガイチに相応しい。
私がサヨナラショーでいちばん泣いたのは、ここだったかもしれない。
それは、個人的な思い入れにしかすぎないけれど。

薔薇の花を投げながら、銀橋を渡る。最後の一輪はたかちゃんへ。
ぼあ〜っとした顔で受け取るたかちゃん(笑)。
緞帳が下りるそのときまで、ガイチはずっと笑顔を絶やさなかった。

挨拶も、涙はなかった。
「心穏やかに、このときを迎えることができました」
「これからも、私らしく正直に、真っ直ぐに歩んでいきたいと思っています」
ほんとうに穏やかな口調で、ガイチらしい誠実な言葉だった。

何回目のカテコのときだろう。
たかちゃんと並んだガイチは、ついにボロボロと涙を流した。
なのに。そのあとで、たかちゃん。カテコ続いて、言うことなくなっちゃったのか?
「あ〜なたが生きているう、それだけがあ、わが支えええ〜」と、突如アカペラ!!?
カテコで不意打ちのアカペラを聞いたのは、トドさまの「で〜んでんむし」に続いてニ回目だよ……。……。

緑の袴の出、車に乗り込もうとするガイチ。
東宝から帝国ホテルの前まで、ぎっしりの人、人、人。
皆、いちように「ガイチ!」「ガイチ!」と叫びながら手を振っていた。
ガイチ、私たちはあなたが大好きだよ。
今までも。これからも。

私たちの思いが、彼に届いたのだろうか。
そのときガイチは、ただ、子どものように。
激しく泣き出した。
私たちの前で見せた、今日いちばんの涙。
きっとこれは、幸せの涙なんだよね。よかった。
あなたが幸せなら。
ほんとうに、よかった。

初風緑。
今までのあなたに、ありがとうを。
これからのあなたに、幸多かれと。

そして、同じくこの日、緑の袴で旅立っていった。
るりちゃん。キティちゃん。花珠ちゃん。ももちゃん。
これからのあなたたち皆に、幸多かれと。

心からの。ありがとうを。

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