>花様退団出ました。

ドリーさんからこのメールを受け取ったとき、私は東宝に向かう道の途中にいた。
ハナちゃんが、退める……。
実感のないまま、劇場に入った。
ロビーでは、皆が口々に噂していた。
「同時だって」
「ついにね」
携帯をかける人、メールを打つ人。
宝塚史上に残る日だろう。
11月8日。娘役トップ在位12年。花總まり、退団発表。

その2週間前にたかちゃんが退団発表したときも、信じられない気持ちだったのに。
コンサートに、1本立て大作。
そんなラインアップが発表されても、心のどこかで「でも、たかちゃんは退めないだろう」と思っていた。
いや、そう思いたかっただけなのかもしれない。
大好きなんだ。夢を見させてくれるタカハナが。
大好きなんだもの。
私は永遠に、夢を見続けていたかった。

さすがに前方席で観ると、「たかちゃん、最近ちょっとヤバいんじゃね?」と思うことはある(笑)。
でもね。立ち見で観れば、あの2人のすごさがはっきりと判るんだ。
オペラ、要らないもの。
2階のいちばん後ろ、壁を背に立ったとき。
その場所にまでも確実に、光は届くから。
そんな燦然と輝ける2人の姿に、心射抜かれるから。

そして、たかちゃんが退団を発表しても。
それでもまだ、ハナちゃんは退めないだろうと思っていた。
「いやあ、凄い神経だよね」なんて口では言いながら。
ハナちゃんは残ってくれると。
信じていた。

退めちゃうんだね。

そしてこの日は、この公演での退団を控えたガイチの誕生日でもあった。
私は前回の星組公演で、トドさまの誕生日に観劇したことがある。
芝居のアドリブや、ショーでのわたさんの「ハッピーバースデー!」コール、劇場を包む祝福の空気。嬉しく、心地よい、あの空気。
今日のガイチにも、思いっきり祝福の拍手を送るつもりだったのに。
この劇場の異様な雰囲気では、どうなっちゃうんだろう……。

ショーのデュエットダンス。
銀橋で挨拶するたかちゃん、ハナちゃんに、長い長い拍手が送られた。
ほんとうに長い拍手だった。
たかちゃんに。ハナちゃんに。
ありがとうの拍手。
いままで、ありがとう。最後まで、夢をください。
あまりにも長い拍手に、戸惑ったような、照れたような顔で目を合わせる2人。

そのとき大階段では、ガイチがスタンバイしていた。
いつ止まるともしれない拍手を聞きながら。
新しい旅立ちへの歌を胸に、この場所で最後の誕生日を迎えたガイチが。
暗い。真っ暗な大階段で。
スタンバイしていた。

大階段にライトが入ったとき。
タカハナへの拍手と同じくらい。いや、それ以上だったかもしれない。
大きな大きな拍手がおこった。
ガイチに。
おめでとうの拍手。
あなたが生まれてきてくれて、ありがとう。
そして、あなたと出会えて、ありがとう。
お誕生日、おめでとう。

たかちゃんとハナちゃんが、今までここにいてくれたこと。もう少しここにいてくれること。
ガイチが生まれてきて、今ここにいてくれること。
ありがとう。
出会えたことが、幸せだから。
ほんとうに、ありがとう。

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