「それではここで、この作品を最後に卒業するメンバーを紹介します。
舞台ではガニマール警部で走り回っておられました、我ら宙組のスイートフェアリー、初嶺麿代さんです!マロル〜!」

カーテンコールに応え、ふたたび緞帳が上がったとき。
大和さんの言葉にニコニコと笑いながら、はっちゃんが前に進み出た。

「大好きな宝塚の舞台、こんなにも情熱をかけられる物に出会えたことは奇跡です。
愛する作品、愛する仲間たち、愛するファンのみなさまがたに出会えました私は、とてもとてもしあわせ者です」

オンナノコの声でそう言いながら、はっちゃんは宙組の愛する仲間たちを見つめ、両手を広げながら客席のファンを見つめ、またニコっと笑った。

そして、キリリとした声で告げた。

「怪盗紳士の最終章はひとりが相応しいとルパンが言っていますが、男役初嶺麿代の最終章は、今このときが相応しい!」

「最高にしあわせです!13年間、たくさんの愛をありがとうございました」

最後の言葉は、男役の顔で。

「これからは客席で、そして遊びにいらしてください」
大和さんが声を掛けると、はっちゃんは言った。

「そらぐみ、だいすき」

両手を口元にあて、大和さんに耳打ちするかのように。
いや、実際はマイク付けてるから、耳打ちなんてかわいいものじゃあないんだけど。

「そらぐみ、だいすき」

妙に舌っ足らずぎみの小さな声で、ポソっと。

「そらぐみ、だいすき」

残す仲間たちへ、そして新しく宙組を背負う大和さんへ。
エール。愛。

みんな大好きだよ。
みんな頑張れ!
そしてタニ、頑張れ!

そう聞こえたのは、私だけだろうか。

はっちゃんの愛が籠められたかのような「そらぐみ、だいすき」に、私の涙腺は決壊した。

「全然おシャレじゃない!」

私がアニエスだったなら、涙いっぱいの目で、そう叫んだと思う。

はっちゃん、全然おシャレじゃないよ。
ガニマールならガニマールらしく、なんかアホやってよ。

かっこよくて、かわいくて、ただもうかっこよくてかわいいご挨拶なんだもの。
ずるいよ、はっちゃん。ずるいよ。
最後の最後に、ずるいよ。

去りゆく人は、みな優しい。
愛が、ここにもある。

それがね、再度のカーテンコールで飛んできた紙テープが顔にhitしちゃうわ、そのときのご挨拶で「いやあ、当たっちゃいました〜!こいつは春から縁起がいい!」とか、どこのオッサンか?みたいなこと言い出すわ、はっちゃんらしく?ん?ガニマールらしくか?締めてくれたりもしたんだけど(笑)。

この日も本編ラストの「See you again!」と、フィナーレのはっちゃんフューチャー場面は、大きな大きな拍手だった。
しかも、フィナーレ・ナンバーが、カーテンコールでもう一度繰りひろげられたのだ。
二度目のはっちゃんフューチャーに、客席はさらに大拍手。

出は緑の袴。
横断幕は、黒地にゴールドで書かれた文字。「はっちゃん卒業おめでとう」
その前をゆっくりとゆっくりと、ニコニコと、いつものような笑顔で歩くはっちゃん。

だが、その表情はいつもとは少し違って、とても穏やかで、そして男役初嶺麿代をやり遂げた充足感に満ちていた。

そう見えたのは、私だけではないはずだ。

「はっちゃん、お疲れさまでした。大好きっ!」
ファンの人たちの掛け声に、はっちゃんは答えた。

「me too!」

妙に舌っ足らずぎみの小さな声で、ポソっと。
照れくさそうに、上目づかいで。

なんでそんなにかわいいんだよ、はっちゃん。
そんなのかわいすぎるよ、はっちゃん。

やっぱり、全然おシャレじゃない。

ずるいよ、はっちゃん。ずるいよ。
最後の最後の最後に、ずるいよ。

そして、ガラス扉の前でちぎれんばかりに手をぶんぶん振りながら、男役初嶺麿代は私たちの前から姿を消した。

その手と、満面の笑顔がかわいくてかわいくて、かわいすぎて。

ほんとうに、全然おオシャレじゃない。

ずるいよ、はっちゃん。ずるいよ。
最後まで、ずるすぎるよ。

はっちゃん、ありがとうございました。
13年間、お疲れさまでした。

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