7月9日、宝塚大劇場。
開演を待つ客席に、拍手が起こった。
え?と思って振り返ると、かしちゃんとるいちゃんがそこにいた。

かしちゃんはシルバーグレーのスーツ。半袖ジャケットの襟元には黒のスカーフ、それを前に長く垂らしている。
スーツの下はショートパンツでナマ腿!足下は黒のニーソにサンダル。前回の東宝星組観劇のときのスタイルに近い。
黒に近い色の髪は自然なセンターパーツでストレート、全開のオデコがピカピカで美しい。こちらは田川啓二氏ファッションショーのときの感じ。
るいちゃんは上下とも白、スカートは膝丈。スカートの下にも、白の短いスパッツを穿いている。かしちゃんよりも、髪の色は明るい。

現役の頃そのままのフェミニンなるいちゃんには、多分みんなすぐ気づいたはずだ。
「るいちゃんだ!」という声が先に上がり、そのあとから「かしちゃん?かしちゃんじゃない?」という声が聞こえてきた。

宙組三代目トップスター「男役」貴城けいは、客席がすぐには彼女だと気づかないほどに、美しい「女性」として大劇場に帰ってきた。

「変身」
かしちゃんはどこまでも魅せてくれる人。

横通路から縦通路に曲がるとき、るいちゃんはちょっと立ち止まってかしちゃんを先に通そうとした。
かしちゃんは「いいのよ」とでもいうかのように、スっとるいちゃんの腰に手をあてエスコートし、るいちゃんを前に促した。

外見の「変身」ぶりに反して、変わらぬ中身のオトコマエ度。
かしちゃんはどこまでも魅せてくれる人。

芝居がはじまった。
もちろん真面目なストーリーだ、無意味にかしちゃんやるいちゃんにアピールする組子はいない。
表面上はいつも通りのきちんとした芝居が続いていた。
そう、祭りまでは。

花の祭り。
バレンシアの人々が陽気に歌い踊る、祭りの場面。
銀橋に大勢のバレンシアーナが出てくる。
センターを務めるのは、七帆くんといづみちゃん。

七帆くんの今回の役は、ドン・ファン・カルデロ。キザな泥棒だ。
そこまで嫌らしいほどキザに徹して熱演していた七帆くんが、音楽と共に銀橋でセンターについた、その瞬間。

かしちゃんとるいちゃんに目をやり、ふにゃふにゃふにゃあ〜〜と笑い崩れた。

その顔はドン・ファン・カルデロでもなければ、七帆ひかるでもない。
ただの「えりこちゃん」だった。

スペインのお衣装の上に「大好き」と書いたタスキが、私にはたしかに見えたよ、えりこちゃん。

この顔がすべてではないだろうか。
彼らがかしちゃんとるいちゃんを前に、どんなに嬉しい思いで舞台に立っているか。
彼らがかしちゃんとるいちゃんを、どんなに愛しているか。
瞬間、ふにゃふにゃふにゃあ〜〜と笑い崩れたえりこちゃんの「大好き」って顔、これが今の組子たちの思いすべてを代弁しているかのようだった。

七帆くんは、すぐにキリっとした男役の顔に戻って、歌いだした。

この場面では、バレンシアーナの男女が歌いながら銀橋を駆け抜ける。
みんなセンターを通るとき、かしちゃんとるいちゃんに目線をやってニコニコするのが可愛い。
だけど、ちぎちゃん。
カーブした銀橋の上を走っているときに、顔だけセンターに残すのは、かなーりキケンだと思うの(笑)。

ショーの開演前は、かしちゃんとるいちゃんの入場に、最初よりもっと大きな拍手が客席から送られた。

三代目トップコンビに、おかえりなさいと。
大劇場に、宙組に、おかえりなさいと。
組子たち同様、宙組のファンも三代目を愛しているから。
「大好き」
おかえりなさいの拍手。

ショーがはじまるまでの間、かしちゃんとるいちゃんはしきりになにか喋っていた。
開演直前に照明が入り、客席には宇宙の星のような、青い光が照らしだされる。

るいちゃんは口をポカーンと開け、顔を上げてキョロキョロ辺りを見回しはじめた。
「うわああ、キ〜レ〜イ〜!」、るいちゃんのアニメ声が聞こえてきそうな、可愛い顔で。
そんなるいちゃんを気にもせず、かしちゃんは相変わらずるいちゃんに喋りかけている。
それが聞こえているのかいないのか、るいちゃんは小さな子どものように天井を見つめながら、まだポカーンと口を開けている。

をいっ!いったいなんなんだよっ、この2人っ!!
いくらなんでも可愛すぎるだろがっ、ええええええっ!!(可愛すぎてついにキレる)

ショーでは、みんな揃ってかしちゃんるいちゃんにアピ大全開大会(笑)。
そして今回、もっともセンセーショナルな?「金星」の大女たち。
ともち、まさこちゃん、えりこちゃん、宙組が誇るトールトリオ。前回はジイさんだったこの3人、今度は女装……いや、美しい女役での銀橋勝負だ。

3人のお衣装は『1914/愛』のオープニング、まさにかしちゃんが着た女装ドレス。
あのときはかしちゃん、タニち、しいちゃん、ゆうちゃんの大女4人。あれも大概デカかったが、宙組のトールトリオはその比じゃないからっ。

大女たちは色気たっぷり?に美しいオミアシを見せつけながら、かしちゃんるいちゃんに妖しく手を伸ばす。
3人とも異様にノリノリ。うっふんあっはんすげーことになっていた(笑)。
特に同期のるいちゃんを誘惑する、ともちの楽しそうな顔といったら!

もう、かしちゃんとるいちゃんの喜びようはハンパじゃなかった。
るいちゃんは客席からビヨンビヨン飛び上がらんばかりになって肩震わせてるし、かしちゃんは前後にぐあんぐあん大揺れのあげく、バッシバシ手まで叩いて(こーゆーおっさんって世間にいる気がするのだが)(笑)受けまくっていた。

大女に対抗する小男が、あゆみさん、ゆきちゃん、あおいちゃん。この3人も濃いの!
同期のゆきちゃんの華麗なる男装に目をやり、またもや大喜びのかしちゃん(笑)。

藤井先生はほんとうに人の使いかたが上手く、ベテランから若手までそれぞれ見せ場のあるショーなのだが、センターで踊るとき、銀橋を渡るとき、みんながそれぞれかしちゃんとるいちゃんにアピっているのが楽しい。
「金星」黒タキの蘭とむちゃんは、糸を引くようなネチネチネチ〜〜〜っとしたウインクを、バチバチってかしちゃんるいちゃんへ。ドエロ顔で唇の片端を歪めてみせる。
ふつーのオンナノコなら「きゃあああっ」って卒倒もののその目線に、大女小男以上に大受けして、身体揺すって大笑いしていたのはかしちゃん(笑)。

個人的には、超好きな「火星」のともちとすずの同期デュエットダンスを、同じく同期のるいちゃんに観てもらえたのが嬉しかった。これはドシリアスなダンスなので、ともちもすずもきっちり踊っていたけれど。
そして、かしちゃんとるいちゃんに、タニちウメの新コンビを観てもらえたのが私はなによりも嬉しかった。

先人によって道は創られ、だからこそ今、道が続いているということ。
宙組の前にも先にも道があり、それはしっかりと繋がっている。

かしちゃんとるいちゃんが、2人揃って大劇場に帰ってきてくれた。
それは客席にとっても組子にとっても、嬉しいことだった。
そして、誰よりもその時間を嬉しくしあわせに感じたのは、タニちとウメだったのではないだろうか。

終演後、るいちゃんは楽屋から遠いほうの通路側へ出ようとした。
「るいちゃん違うう、こっちこっち!」、そんな顔でるいちゃんを呼び戻すかしちゃん、るいちゃんは「あれえ?いやあん、間違えちゃったあ」といったようなポヤーンとした顔で、あたふたしている。

通路に出たとき、2人は「ナニゴトもありませんでしたがなにか?」といったクールな表情を作り、そして大劇場をあとにした。

をいっ!いったいなんなんだよっ、この2人っ!!
いくらなんでも可愛すぎるだろがっ、ええええええっ!!(だから最後にまたキレる)

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