「とうとう賞味期限がやってまいりました」
シビさんはのっけからそう言ってのけたさ。「賞味期限」は、どうやらシビさんの持ちネタらしい(笑)。
「宝塚は竜宮城のようなところで、高校時代になんだか鯛やヒラメが歌ったり踊ったり芝居したり楽しそうなところだから入ってみようかなあと思って、やんややんやと」
「それで地上に上ってお土産の玉手箱を開けてみたら煙がぼわっと出て、たしかに上にあったものが全部下に」
シ、シビさんてば……ちょっと待って!シビさんはいいんだって、竜宮城でやんややんやと歌う乙姫なんだから。
私はリアルに浦島太郎だよ、やばいよ、竜宮城を見続けて早何年?(震撼)

こうなったら死ぬまで玉手箱は開けるまい、私こそ上にあったものが全部下になってる現実は直視しませんことよ!と固く心に誓ったのであった(真顔)。

花こそ胸に付けていらっしゃったものの、ふつーの、まるでスカステのトーク番組かのような明るい喋りに、今日がシビさんのご卒業の日なのだということを私は正確に認識できなかった。
そして、それでいいのだと思った。明るい笑いの中でさりげなく去ることが、シビさん自身の望みなのではないかと。
だから私も笑っていられた。

ケイさんを見るまでは。

ケイさんが泣いていた。
立派な軍服姿、立派な髭面のケイさんは、「下級生のケイ」のオンナノコの顔に戻って泣いていた。

あ。シビさん最後なんだ。
宝塚のシビさんは、今日で最後なんだ。

突如、それを理解した。
そのときはじめて、私は泣いた。

バレンジスタでお見送りしたヨネさん、先月中継でお見送りできたともみさん、そしてシビさん。
私が竜宮城を見はじめたほんの子どもの頃から、ずっとずっとそこに居続けてくれたかたたちだ。
私はすっかり汚れた(笑)大人になってしまったが、竜宮城の住人たちは永遠の乙姫のままやんややんやと歌い踊り続け、夢をくださっていた。
ご卒業されても、その姿は私の中で永遠だ。
淋しいなんて簡単には言えないけど。だけど。ほんとうに。

ありがとうございました。

シビさんは変わらない人だったなあ。その役割は、昔も今も同じだわ(笑)。
歌で、声で、その世界をガラっと変える存在。
さすがに昔の写真と並べでもしたら違いも分かるのだろうが、舞台で拝見する姿もお顔も昔とまったく変わっていないように見える。

専科のかたのご卒業のご挨拶は、物事をやり通した満足感に溢れていて、ほんとうに気持ちがいい。やり通した人間の、その誇り。
淋しいなんて、それはこっちの勝手な感傷かもしれない。一口に四十年と言っても、それを続けるのは並大抵のことではないだろうから。
すがすがしく去っていく人たちに、やはり簡単に淋しいとは私は言えない。その場所に共に居続けて、心を分かち合い、そして残されるケイさんの涙にこそ真の淋しさが詰まっているのかもしれない。
竜宮城の見物人には決して簡単に分かることのない、深い淋しさが。

シビさんは楽屋から出られるときも、ふつーだった。
日々の入り出のようなベージュのコートで、さりげなく楽屋口を後にされた。
ふつーじゃなかったのは、むしろケイさんだ。あの黒のロングコート、ぜってーカタギには見えないからっ(笑)。

りんかちゃんは下級生らしい、丁寧で誠実なご挨拶だった。
クレオパトラで見せてくれた透明な狂気を、忘れることはないだろう。これも私の竜宮城の大切な記憶となって、永遠に残る。
前回の衣絵ちゃんといい、この劇場で観るりんかちゃんはなぜかある種の「イっちゃった人」だったわけだが(笑)、どっちも大好きっ。

永遠に。私はこの竜宮城を愛する。
愛し続ける。

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