この作品でひとつだけ、最後まで引っかかっていた台詞がある。
近藤文男@まりえさんへの、白洲次郎@轟さんの台詞だ。

「近藤さん、あなたはたしかに大成功をおさめるような評価を得た人じゃない。だが失敗もミスもなく、長年職務を着実にこなしてきた」

「日本が独立するためには、あなたのような縁の下の力持ちが必要なのです。組織は地道にコツコツと仕事をしてくれている人がいるから、成り立っているのですよ」

ご卒業されるまりえさんに対する、餞の言葉でもあるのだろう。
だが、私はどうしても、これに納得がいかなかった。

まず、長い二十年余にわたる宝塚での人生、苦しみも喜びも含め紆余曲折あったであろう道のりを、これだけの言葉で総括しようというのはあまりにも不遜なのではないかということ。

それから、まりえさんは決して「大成功をおさめるような評価を得た人じゃない」、じゃない。からだ。
「大成功をおさめるような評価」が、たとえばトップスターという形を指すならば、それはまりえさんには当てはまらないだろう。
じぇんぬは誰しもが「地道にコツコツと仕事をして」いるはずだ。結果、トップスターという、ひとつの頂点の形に達する人もいる。

そして、まりえさんは「地道にコツコツと仕事をして」、「美郷真也」というオンリーワンの頂点を極めた人だ。
誰にも真似のできない、「美郷真也」という、まぎれもないスターなのだ。
ただの「縁の下の力持ち」とは、私にはまったく思えない。

石田先生の気持ちは分かる。まりえさんに対する敬意がこもった台詞だというのも分かる。
だが私は「大成功をおさめるような評価を得た人じゃない」という言葉にどうしても素直に頷けなかったし、むしろ怒りに近いものすら感じていた。
もうひとつ言えば、皆そう感じるはずだと、最初は思っていた。

いやあ、皆この台詞で「泣く」んだって(苦笑)。

世の中には私のような捻くれ者は少なくて、いい人が多いらすィ。ぐちゃぐちゃ細かいこと言わず、素直に受け止めればいいだけだとは、私も思うのだが。
私の否定的な意見を「分かる」と言ってくれたのは、自分の周りでは緑野さんとドリーさんだけ(笑)。むしろ「ジュンタン、何言ってるの?」(首かしげ)と、私の言いたいことの意味すら分かってもらえないほうが多かった。

「こういう餞の場があることに意味があるんだよ」とも言われた。たしかにこういう場を設けたということに於いては、石田先生はすばらしい仕事をしたと思う。
でも、そのこと自体がすでに「大成功をおさめるような評価を得た人じゃない」、じゃない証拠じゃん!(とことん捻くれ者)
オンリーワンの頂点を極めた人に対して、どうにも言葉が無神経すぎる。
「場」ではない、その「言葉」に引っかかりを感じざるをえないのだ。
最後まで私のこの思いは、拭い去ることができなかった。

しかし二回だけ、私はこの台詞で泣いた。
ムラの千秋楽と、東宝の千秋楽である。

轟さんの言い方が、反則なんだもん(笑)。
白洲さんから近藤さんへ、ではない。
千秋楽の轟さんは、苦楽をともにしてきた上級生のイシちゃんとして、「まりえちゃん、お疲れさま」って限りない愛をこめて、優しい目でこの台詞を言うんだもん。
イシちゃんからまりえちゃんへ。

それは泣くって。

ムラでも東宝でも、この台詞に対して千秋楽は大きな拍手が起こった。
ほんとうの最後である東宝楽では、まりえさんご本人も組長を見送る舞台上の出演者たちも皆が目をしばたたかせていたが、ここにもう一人反則者が(笑)。

ちーぎーたーーーっ!!

ちぎちゃんの目に涙が溢れ、それがポロポロと零れては落ちてゆく。
このあと、「あの、おじ様。今日、正子さんは」のストップモーションになっても、その涙は止まることを知らない。

ストップモーションのまま。
ちぎちゃんの目に涙が溢れ。
それがポロポロと零れては。
次々に落ちてゆく。

ポロポロと。ポロポロと。

宝石。
この涙は間違いなく宝石(素)。

この反則技には耐え切れず、私もごおごお泣く羽目に陥った。

エンディングの大コーラスでは、宮川喜一郎@ちぎちゃんは近藤さんと握手をして幕切れとなる。

「宙組代表として、組長さんありがとうございますと感謝の意をこめて握手させていただけることを、光栄に思っています」
「大劇場の千秋楽では素の自分が出ちゃうぐらい泣いてしまったので、東京ではそんなことがないよう気をつけたいです」
メディアでもお茶会でも、ちぎちゃんはこんな風に仰っていた。

さて、東宝千秋楽エンディング。

ちぎちゃん、ムラ楽以上に大泣きしてますやん!!(爆)

二人は握手をしたまま、最後正面を向くのだが。

正面を向いたまま。
ちぎちゃんの目に涙が溢れ。
それがポロポロと零れては。
次々に落ちてゆく。

ポロポロと。ポロポロと。

宝石。
この涙は間違いなく宝石(素)。

だからちぎちゃん、それ反則(笑)。

2008年5月18日。
組子に、上級生に、ファンに、観客に。
皆に愛されて、愛されて。
宙組組長美郷真也は、宝塚を卒業していった。

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