最初にビクっとしたのは、次回大劇がハリー&岡田作品と発表されたときだ。
私が愛してやまない愛短&ネオダン……わたるさんの卒業公演と同じ演出家が並ぶだなんて、いやあああん!ま、その程度。
その東宝楽がカレンダー掲載月と一致していたことも、私はあくまでもネタとして話していた、周りにガンガン(笑)話していた。
「やっばいよ、タニちゃん退団なんじゃね?!!」

平気でそんな話ができたのは、大和さんはまだ絶対に退めないと思っていたからだ。

学年も若く、長くトップを続ける人だと。
外的要素から、どう考えてもそうだろうと。
本気で退団を疑ったことなどなかった。一度たりとも。

パラプリの東宝楽は、結局たっちんのエトワールのことと、ラルフくんアドリブしか書いていない。
あのラルフくんアドリブを見たとき、みっちゃんを抱きしめる大和さんを見たとき、急に私は怖くなった。
怖いとは書けなくて、こう書いた。

>大和さんは真っ直ぐな人で。
>その真っ直ぐさゆえに、周りが見えていないように、見える。見えてしまう。
>そんな人だと思っていました。つか、そんな時代はあったかと。
>だから決して、面倒見の良いタイプには見えなかったはずです。
>そして、ポーズでそんなことは絶対にやらない、やれない人です。

こんなのでも考え考え(苦笑)、出した言葉だ。
タニちゃんは下級生の頃から、前を見ることしか許されなかった人だ。
そして、ずっとずっと真面目に、ひたすら前だけを見て走り続けてきた人だ。
周りなんか見る余裕もなく、自分のことで手一杯で。
タニちゃん本人はとても真摯な人で、上にも下にも気を遣って大変だっただろうと思う。それでも舞台の上では与えられたものに全力でぶつかるしかなくて、噴煙を撒き散らし、それでピッカピッカと輝いてきた人だ。

なんでこんなに穏やかな、優しい、優しい顔をするんだろう。

私には、みっちゃんを抱きしめているタニちゃんから、光が立ちのぼっていくように思えた。
ピッカピッカでもキラキラでもなく、もっと澄んだ、静謐な光が。

そのあと、「僕のParadise Prince~Believe in myself」を歌っているとき。

あまりにもタニちゃんの眼が澄んでいて、その澄んだ眼からスーっと静かに涙が流れ出て。
ここで彼が涙を流したのは、大楽が最初で最後だったんじゃないかと思う。
そして、今度こそたしかに、私は彼の背中から一筋の澄んだ光が立ちのぼっていくのを見た。
それは、この世のものとは到底思えないほど、美しい画だった。


怖くなった。
はじめて、ほんとうに怖くなった。

これは、彼が天に還る光だ。

そう思ってしまったから。

怖くて怖くて、幕間に会ったパクちゃんに、思わず「あれを歌ってるタニちゃんに、なんか感じなかった?様子、変じゃなかった?」と口走った。しかし彼女には、その問いかけの意味は分からなかったようだ。
少し安心した。
私がナーバスになりすぎているのだ、いや、作品としてパラプリは許せない!と公言していたくせに(え?)大和さんの涙に号泣した自分に言い訳をしたくて、妙な光を見た気になっているのだと。

それでも、不安が澱のようにジワジワと心の底に、あのときから拡がっていった。
このお喋りな私(笑)が、幕間に口を滑らせたとき以降、ひと言もそれを仲間に洩らさなかった。ありえん(笑)。

口に出したら、その不安が現実になってしまいそうで、怖かった。


発表を見たとき、だから驚かなかった。
ああ、来たか、と。
驚きはしなかったが、でも。

哀しかったな。


自分自身を信じたくても 少し弱気で挫けるときや
自分の力信じたくても 抱えきれない不安に
一人やりきれず 暗闇の中立ちすくむ

だけど信じたい僕自身を 信じたいこの想いを
必ずきっと道は見つかる
この足で歩き 迷い 転び たどり着く My Dream


タニちゃんは、どんな気持ちであの歌詞を歌っていたのだろう。
ずっとずっと走り続け、夢にたどりつき、そのゴールを見据えたあのとき。だからあんなに澄んでいたのだと、今なら分かる。
そして彼から立ちのぼっていた静謐な光は、これまでの彼を見つめてきた人間に、見えたものだったのだと思う。

スチュアートと私は、どこか似ている。
タニちゃんはそう言っていた。
自分は好きで宝塚に入ったのだから恵まれてしあわせだが、若いときからずっと与えられた立場に全力で立ち向かうことしか許されなかった、そういう部分ではスチュアートの苦しさも分かる。
そんな意味の言葉を。

大和さんが走り続けてきた華やかなその道は、どれだけ厳しいものも伴っていたんだろう。


まあね。
選ばれし人……というより、彼は最初から天上人なの。
だから、天に還るのよ。

あっという間に、ね。

分かってはいても。
今は、それでも哀しいのです。

とても、とても。

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2009/01/19
宙組主演男役 大和悠河 退団のお知らせ

宙組主演男役 大和悠河が、2009年7月5日の東京宝塚劇場宙組公演『薔薇に降る雨』『Amour それは・・・』の千秋楽をもって退団することとなり、2009年1月20日に記者会見を行います。

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