星原さんは、泣いていた。

すみれの花束を抱え、緑の袴で劇場前を歩く星原さんは、泣いていた。
ポロポロと、泣いていた。

男役・星原美沙緒に別れを告げ。
一人の女性に戻られたかのような。

素直な、子どものような、美しい涙だった。

「宝塚歌劇団、専科。男役・星原美佐緒。今日、夢を売る宝塚を卒業します」

大階段を降りて、力強く挨拶されていたお顔とはまったく別の。
一人の女性に戻られたかのような。

やわらかい、美しいお顔だった。

ひとつのことをやり遂げる。
星原さんの長距離走には、たくさんの苦労もあったかもしれない。
その中で夢人であり続け、今ゴールをむかえようとされている。

そのことの重さと尊さ。

千秋楽後に、公演途中から足を痛められていた、という話が聞こえてきた。
ロバートに機関銃を運ばれなくなっていたこと。
最後の走るところで、台詞を言いながらスタート地点を前へ前へ延ばされるようになっていたこと。
ああ、そうだったのか……。

千秋楽のパブロの歌の気迫は、凄まじかった。
星原さんの歌の、言葉の持つ「気」に押されて、身体に戦慄が走った。


星原さん。
ちっすー。
まるちゃん。
走った長さはそれぞれに違えど、皆、その道を走りぬいたことの満足感に輝いた、美しい出だった。


ご卒業おめでとうございます。

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